生涯学習講演会

生涯学習講演会レポート

多元的共生社会における生涯学習を考えるシリーズ第26回

SDGsで学ぼう!
世界を楽しく救うアイデアの
つくりかた

講演者:本田亮(環境マンガ家・国連WFP協会理事)
日 時:2021年7月21日(水)19:30~21:00
会 場:オンライン開催(Zoom)

レポートPDFはこちら

1.イントロダクション

まず自己紹介をすると、僕はもともと電通のCMプランナーでした。「ピッカピカの一年生」等を企画制作して、最後は東日本大震災のときに多く流れた公益社団法人ACジャパンのCMの半分ぐらいをつくらせていただき、それをきっかけにして早期退職をしました。2011年の独立後は、クリエイティブディレクターとか、環境マンガ家とかアウトドアエッセイスト、ネイチャー写真家、国連WFP協会理事だとかをしています。

いろんなことをやっているように見えますが、真ん中にあるテーマは「地球」なんですね。テーマのひとつめとしては、「地球と遊ぶ感動を伝える」。本を出したり、連載を持ったり、もしくは番組や講演などで、アウトドアライフ、地球と遊ぶ楽しさを伝えています。ふたつめは「地球の痛みを伝える」ということで、「環境問題をユーモアで紐解くイラストレーション」を30年描いています。3つめのテーマは「地球の美しさの再認識」。「自然と親しむ心とやわらか頭を育てる葉っぱアート写真」というのをやっております。これは出版、それから子供たちと一緒に葉っぱアートをつくるワークショップですね。以上3つのテーマで、地球の良い面も悪い面も含めて、いろんな形で伝えていこうと思っています。

なぜそんなことをしているかというと、僕は地球の叫びを人よりたくさん聞いてきたかなという気がするんですね。世界75ヶ国ぐらいを旅して、本当にどうしようもない人間の自然破壊を目の当たりにして、地球の叫びを聞いてきたので、その声をいろんな形にクリエイティブして多くの人に届けたいと思ったんですね。

そもそも環境マンガを描き始めたのは、1990年にサハラ砂漠を横断したときに「砂漠化」というものを目の当たりにしたのがきっかけです。そこから環境マンガ、ユーモアイラストはもう30年近く描いていますが、2019年からはSDGsをテーマに拡大しました。環境問題だけでは地球の叫びの一部しか伝えていないと思ったんですね。そこから、いろいろなところで展覧会をしたり、『ムズカシそうなSDGsのことがひと目でやさしくわかる本』(小学館)を出版したり。今回はこのあたりを中心にですね、SDGsの話と、それからどうやってSDGsのような難しいメッセージを伝えていくのかということをお話していきます。

2.SDGsってなんだろう?

■誰ひとり取り残さないSDGs

みなさんご存知だと思いますが、SDGsはSustainable Development Goalsの頭文字をとったものですね。訳すと「持続可能な開発目標」ということ。SDGsは2015年9月に国連サミットで採択されまして、2030年までに人類が達成すべき目標とされました。ここのところ一気にブームなってきましたけど、あと9年ぐらいしかないっていう、そういう目標なんですね。

SDGsの前にはですね、MDGs(Millennium Development Goals)ミレニアム開発目標というのがあったんですね。MDGsは貧困率、疾病対策(HIV、マラリア、結核)だとかの分野の目標で、ある程度達成したと判断されて、2015年に終了しました。そこで積み残した課題も含めて、より多くの課題に対応しようのが、SDGsです。何が言いたいかというと、MDGsのときは途上国の課題だったんですが、SDGsは先進国も含めた、地球の未来のために足かせになっているあらゆる課題を解決しようというふうに、大きな視点で考えられたということ。SDGsの本を読むと何度もですね、「誰ひとり取り残さない」という言葉が出てきます。先進国には先進国で抱えている多くの問題があると。途上国、先進国関係なく、貧しい人も豊かな人も抱えている問題に対して、誰ひとり取り残さないということです。

SDGsの考え方というのは、「人類が地球で豊かに暮らしていくために、世界共通の持続可能な開発目標をつくり、地球を大切にしながら経済活動をしていこう」ということです。要するに、もう開発は止めようではなくて、持続可能な形で開発して豊かになりましょうというのがSDGsなんです。これまでも国際社会でさんざん話し合われてきたことではあるんですが、SDGsがちょっと違うのは、国やNGOだけでなく、企業をパートナーとしたことなんですね。企業は、地球の未来に影響を与える製品やサービスを生み出す能力を持っていると、つまり、企業にこそ世界を変える力があるんだということを国連が認めたんですね。

多くの企業がSDGsを重要視しているのは、企業の持続可能性を支える基礎になると考えたからです。ウイルスや政情不安等、ビジネス市場はいろんな形で失われていきますが、一方でそれはビジネス上の機会拡大にもなる。再生可能エネルギーであったり、社会問題を起点とした市場、低所得者層向けのBOP市場が拡大してきたりといったことですね。一方で、コンプライアンスへの圧力で、やらざるを得ないという理由もあります。

■ユーモアイラストで楽しく紐解くSDGs

SDGsには、飢餓、貧困、環境問題、経済成長、ジェンダー平等まで、あらゆる課題を網羅した17の目標があります。その17の目標それぞれに、169のターゲットがものすごく細かく書かれているんですね。きちんと読むと頭が痛くなるような難しいことが書いてあるのですが、それをイラストにしましたので、少しずつピックアップしながら解説していきたいと思います。

【1:貧困をなくそう】

ゴール1「貧困をなくそう」のターゲット(1-1)には、簡単にいうと「1日1.25$未満で暮らしている極度の貧困層をあらゆる場所でなくそう」というようなことが書いてあります。僕は、Foodの看板を出している浮浪者のもとに、いろんな生き物が自分の食べ物をおすそ分けにくるというイラストレーションを描きました。オランウータンがバナナを、猫が魚を、でも犬はドギーバック持ってくるという。こんなふうにブラックユーモアで明るく伝えるっていうのが、僕のやり方なんですね。

(イラストレーション:本田亮)

ここで質問なんですけど、1日200円ほどで暮らしている貧しい人たちは地球上にどのぐらいいるでしょうか。7000万人だと思う人…7億人ぐらいだと思う人…15億人ぐらいだと思う人…。正解はですね、7億人なんですね。人類は78億人ぐらいいますから、そのうちの10%ぐらいの人が1日200円程で暮らしているという時代なんですね。

【2:飢餓をゼロに】

ターゲット(2-2)には「あらゆる栄養不良を解消し、妊婦、授乳婦などの栄養ニーズに応えよう」とあります。イラストレーション「噂のスーパーコウノトリ」では、国連WFPの活動を象徴的に描いていて、赤ちゃんを運ぶコウノトリより先に、ジェット燃料をつんだコウノトリがですね、お母さんのための食べ物を運んでいます。お母さんに対する栄養補給っていうのがね、これがとても重要な役割だったりするんですね。

(イラストレーション:本田亮)

【3:すべての人に健康と福祉を】

ターゲット(3-8)では、「すべての人が保健サービスを受けられ、医薬品を安く手に入れられるようにしよう」というようなことが書かれています。このターゲットに対しては、「サバンナの診療所」というイラストレーションを描きました。お医者さんのもとにたくさんの人が並んでいるんですが、赤ちゃんライオンを連れたお母さんライオンまで並んでいます。アフリカ、アジア、南米の貧しい国を訪れると、「お前は医者か?」ってよく聞かれるんですね。僕が医者っぽく見えるのかなと思ったんですが、そうではなくて、先進国から来た人にはとりあえず聞いてみようと。それだけ、医療や薬を欲しがっているということなんです。

【4:質の高い教育をみんなに】

ターゲット(4-1)では「男女の区別なく、すべての子供が初等・中等教育を修了できるようにしよう」と書いてあります。僕が描いたのは「移動型水牛教室」。実際に途上国に行くとですね、勉強したくても勉強できない、学校に行かせてもらえない子供たちがたくさんいます。そこで、農作業をしている子供たちのところに、移動式の水牛教室があったら面白いかなと考えました。

【5:ジェンダー平等を実現しよう】

ターゲット(5-5)には「政治・経済・公共などあらゆるレベルの意思決定で、女性のリーダーシップを増やそう」とあります。僕は「今こそ、レディ、GO!」っていうね、女性が矢印の先頭になって国が動かしているというようなイラストレーションを描きました。

では、またここで質問です。ジェンダー平等で最も評価の高い国はどこでしょうか、ニュージーランドだと思う人…スウェーデンだと思う人…アイスランドだと思う人…はい、ありがとうございます。スウェーデンが多いようですが、実はアイスランドだったりするんですね。2位がスウェーデンですが、どちらも非常に高いレベルではあります。2年ほど前にアイスランドに行きましたが、本当に多くの女性がリーダーシップをとって働いているところをこの目で見てきました。

【6:安全な水とトイレを世界中に】

ターゲット(6-2)では「誰でも下水施設を利用できるようにして野外排泄をなくそう」とあります。僕が描いたイラストレーションは「爽やかな青空トイレット」。トイレ案内板に沿って女性が進んでいくと、人と一緒に動物たちが並んで、草むらに座って用を足しています。

では、世界中には外で排泄している人はどのぐらいでしょうか。1億人だと思う人…3億人だと思う人…9億人だと思う人…。はい正解は9億人です。当たり前のように、トイレがないところで暮らしている人はたくさんいるんですね。

【7:エネルギーをみんなに そしてクリーンに】

ターゲット(7-2)として、「エネルギーミックスの中で再生可能エネルギーの割合を大幅に増やそう」というものがあります。イラストレーションでは「未来へのバトンタッチ」を描きました。陸上トラックを今までの化石燃料たちがボロボロになって煙を吐いて走ってきて、再生可能エネルギーがずらっと並んでバトンを受け取ろうとしているイラストです。並んでいるのは、地熱発電、風力発電、火力発電、太陽光発電、水力発電、バイオマス発電です。

【8:働きがいも経済成長も】

ターゲット(8-7)には、「強制労働を根絶し、最悪なカタチの児童労働を撲滅しよう」と書かれています。僕は、レンガの上に座っている大人が、奴隷のように子供たちを使っている「縁の下の小さな力持ち」というイラストレーションを描きました。

(イラストレーション:本田亮)

基本的に僕が扱うテーマはブラックだったり、悲惨だったりするような状況ではあるんですが、泣いている人は描かないようにしています。登場人物が悲惨になってしまうと「見たくない」という気持ちが働いてしまうので。あくまでもトーンやタッチは明るく、ただメッセージはしっかりと伝わるようにということを心がけています。

【9:産業と技術革新の基盤をつくろう】

ターゲット(9-1)では「すべての人のため、質が高くて持続可能で、強じんなインフラを開発しようという」とあります。僕が描いたのは「誰にでもフルサービス」という、老若男女みなが同じようなインフラサービスを持っているイラストレーションになります。

【10:人や国の不平等をなくそう】

ターゲット(10-1)は「それぞれの国の所得が低い40%の人々の収入を少しずつ上昇させよう」。イラストレーションは「動かないシーソー」です。シーソーの一方には、ちょっとふくよかな方がワインを飲みながら、クルーザーとか車とかたくさん持っているんだけど、反対側ではたくさんの人たちが食べ物もなく、ひしめき合っちゃっています。

ではここで、また質問です。世界で最も豊かな8人の人が持つ資産は、貧しい人の何人分でしょうか。8000万人分…12億人分…36億人分…。はい、正解は36億人分です。アマゾンの創始者をはじめとするような8人の資産が集まると、何十ヶ国分の資産になる。世界は、非常にアンバランスです。

【11:住み続けられるまちづくりを】

このゴールに対して「広がりがあり、持続可能な都市化を進め、快適に人間が住むための計画・管理を強化しよう」というターゲット(11-3)があります。これは街をですね、ちょっと人間のような形にして、自らもっと良い街になるために鍛えているというようなイラスト「街も筋トレ中」として描きました。

【12:つくる責任 つかう責任】

ターゲット(12-5)として「廃棄物の発生防止、削減、再利用により、廃棄物を大幅に減らそう」と書かれています。今、海の中のマイクロプラスチックが非常に問題になっていますけど、それをちょっとユーモラスに描いてみました。タイトルは「今日もプラスチックレイン」。魚たちの先頭のかじき鮪が、ビニール傘を使ってプラスチックを避けながら泳いでいるというイラストレーションです。

【13:気候変動に具体的な対策を】

ターゲット(13-2)としては「それぞれの国の政策戦略に気候変動対策を積極的に盛り込もう」とあります。北極の氷がどんどん減って、シロクマが絶滅危惧種となりました。このイラストレーションではブラックユーモアで、「そろそろオシマイおしまいですね」と、ノコギリザメが氷を切ろうとしている姿を描いています。

(イラストレーション:本田亮)

【14:海の豊かさを守ろう】

ターゲット(14-3)では「科学的努力をすすめて海洋酸性化を最小限に抑えよう」と書いてあります。これは「レモンと梅干の海」というイラストを描きました。海洋酸性化が進んで、酸っぱくなった海から生き物が飛び出してきています。地球では過去5回の大量絶滅があったのですが、3回目は海洋酸性化が原因とされていて、現在はそれに近い状況になっていると言われています。

【15:陸の豊かさも守ろう】

ターゲット(15-2)は「森林減少を止めて、傷んだ森林を回復し、新しい植林を大幅に増やそう」です。イラストでは、アマゾンのカピバラが、落ちてくる森のジグソーパズルを一生懸命戻そうとしている「ジグソーアマゾン」を描きました。世界の森林面積の焼失スピードはどのくらいだと思いますか? なんと、1分間に東京ドーム2個分といわれています。

【16:平和と公正をすべての人に】

ターゲット(16-1)では、「あらゆる場所での暴力および暴力による死亡率を大幅に減らそう」と書かれています。アメリカなんかのダウンタウンに、金をよこせというギャングがいて、その後ろにも、その後ろにも別のギャングがいて、さらに犬のギャングやカラスのギャングが続いていたら面白いんじゃないかと考えました。どこまでも終わらない暴力を描いた「暴力の連鎖方程式」というイラストです。

では、質問です。アメリカにある銃販売店の数はどのぐらいでしょうか。スターバックスと同じくらい…マクドナルドと同じぐらい…ピザショップと同じぐらい…。これ実は、すべてを足したくらいの数になります。本当に、どこでも簡単に銃が買えてしまうのがアメリカなんですね。

【17:パートナーシップで目標達成しよう】

「先進国は開発途上国に対するODAをGNI比0.7%と決めて実現しよう」というターゲット(17-2)があります。これは「海の向こうからプレゼント」というイラストなんですが、先進国がちっちゃな島国に学校や橋を届けています。0.7%っていうと非常にちっちゃいような気がするんですが、実際にはなかなか達成できていません。日本も0.4%以下だったと思います。

■日本のSDGsと理想的なSDGs

日本のSDGsはどう評価されているかということでいうと、評価の高いゴールはたくさんあるんですね。「4:質の高い教育をみんなに」、「9:産業と技術革新の基盤をつくろう」、「16:平和と公正をすべての人に」などは非常に評価が高い。評価が低いものは、「5:ジェンダー平等を実現しよう」、「13:気候変動に具体的な対策を」、「14:海の豊かさを守ろう」、「15:陸の豊かさも守ろう」、「17:パートナーシップで目標を達成しよう」あたりですね。そんな中で、最も評価の低いゴールはどれかというと、これはおそらくみなさんご存じかと思いますが「5:ジェンダー平等を実現しよう」です。153ヶ国中121位と、先進国では最低レベルです。

理想的なSDGというのは、複数のSDGsを同時に達成することだと思うんですね。例えば、国連世界食糧計画WFPの場合では、「学校給食プログラム」を推進しています。「学校給食プログラム」は子供たちの「飢餓ゼロに」というゴール2に対して貢献するもののように思えますが、“学校”で給食を出すということなので、子供たちの健康状態が改善されると同時に、教育レベルの向上にも寄与する。つまり、ゴール3の「すべての人に健康と福祉を」と4の「質の高い教育をみんなに」も実現するんですね。結果として、教育を受けた子供たちの就業機会が増えたり、女性の地位が向上したりということにもつながるので、ゴール8「働きがいも経済成長も」、10の「人や国の不平等をなくそう」にも貢献できる。最終的には、大きなテーマであるゴール1の「貧困をなくそう」も実現できるという取り組みになります。

3.アイデアの力と、6つのアイデア発想法

■難しいテーマを伝えるときこそ、アイデアの出番

僕はこれまで、環境問題、薬品問題、ダム問題や原発問題、ワーク&ライフ問題、領土問題だとか、それからSDGsと、いわゆる社会問題をテーマにいろいろなカタチのモノを生み出してきましたが、こういう難しいテーマほどアイデアが活きると考えています。

素晴らしいものを伝えるときには、アイデアは必要ないんです。素晴らしさをそのまま伝えればいいから。でも実際には、そこまで素晴らしくなかったり、なかなか魅力が伝わらないという面があったりするものだから、そこにクリエイティブやアイデアの出番があるわけなんですね。いかに面白く伝えるか、いかに分かりやすく伝えるか。だから、社会問題を伝えるときにこそ、アイデアの出番だというふうに思うんですね。

社会問題への興味構造を考えてみると、8割方の人はあまり関心がないんです。とても関心がある人が1割、まったく関心がない人が1割。とても関心がある人というのは真面目な人たちが多いから、きちんと伝えれば共感してもらえると思って、どんどん難しく細かくなってしまうようなところがあるんですね。でもそれでは、あまり関心がない人には届かないんです。難しい話には近寄りたくないですし、興味のないメッセージは右から左へと流してしまうから。圧倒的多数の人に届けるには、その多数派の視点と尺度と言葉で話しかけることが重要だと思うんですね。

そんな多数派に届けるチカラが、ユーモアにはある。ユーモアを持って話しかけたり、ユーモアのあるビジュアルを提供したりすると、心に引っかかるし、振り向いてくれるんですね。相手がちょっとでもクスッと笑ったら、もう相手の中に残ったということ。ユーモアは強いです。

僕はエコノザウルスの環境マンガを30年描いていますが、これも重くて、暗くて、難しい環境問題を、明るく、楽しく、分かりやすく届けるというもの。小学生からお年寄り、日本人から外国人まで、すべての人をターゲットとしていますし、実際に幅広い年代の方が僕の本を手に取ってくださっています。

■6つのアイデア発想法

ここからは、アイデア発想の方法をご紹介したいと思います。難解な問題を、どのようにして心に届けるひとコマのユーモアイラストに仕上げるかというときには、僕は6つの方法で考えています。「行動予測」「たとえる」「時間軸で考える」「ライバルの視点」「キャラクター化」と、「常識の破壊」。常に意識しているわけじゃないんですが、過去のイラストレーションを振り返ってみると、だいたいこの6つに分けられるかなと思っています。

【その1:行動予測】

行動予測は、「伝えたいことの当事者は誰だろう?」と主人公を見つけ出す方法です。そして、主人公もしくは当事者になりきってその行動を予測するんですね。どんな行動をするんだろう、どうやって乗り切るだろう。行動のさらにその先を想像するんですね。先の先を読んで、こんなことがあったら面白いという物語をつくっていくのが、行動予測のやり方です。

ここでちょっと、みなさんと一緒に考えてみたいと思います。例えば、「広葉樹林が減っていることで、里に下りてくる熊が増えている。90年代に比べると捕獲される熊の数が4倍にもなった」というメッセージを伝えたいとき、どうしますか。行動予測のやり方で考えるとどうでしょうか。このメッセージの中の主人公というのは多分熊でしょう。熊が里に降りてきたときは誰に出会うんだろう、そのときにどういう行動をするだろう。その先に、こんなストーリーだったら面白いなっていうのを、10秒間で考えてみてください。

どうでしょうか。僕は、熊が里に下りてきて、食べ物欲しさに犬小屋のなかに入って、犬のフリをするのではないかと考えたんです。「お前本当にポチ?」っていう、イラストレーションですね。

(イラストレーション:本田亮)

【その2:たとえる】

2番目は「たとえる」です。これは、伝えたいことのコンセプトとよく似ている別のモノを探す、多くの人が知っている出来事やお話などの中に取り組んでしまう方法です。同じような別のモノ、簡単で、楽しくて、わかりやすいモノを探すということですね。

たとえば、「世界の人口は間もなく90億人を突破する。食料や資源が底をついたら人間は生きていけなくなる」という報道があったとします。みなさんはどう考えますか?

僕がたとえたのはですね、鹿威し(ししおどし)です。鹿威しに赤ちゃんがどんどん入っていっている様を描いて、「いっぱいになったらどうなるの?」というタイトルを付けました。鹿威しですから、いっぱいなったら全部吐き出されてしまうっていうことが想像できる。誰もが知っている鹿威しというモノで、このままでは全員が生きていくことはできないってことを象徴しているんですね。

【その3:時間軸で考える】

「未来になったらどうなるのだろう?」「過去はどうだったのだろう?」と時計を進めて戻して、そこで起きる出来事をビジュアル化する。現在と比較することでインパクトを与える、「時間軸で考える」というやり方があります。

たとえば、「もっと豊かに、もっと便利になるために人間は地球環境を浪費し続けてきた。このままでは地球がダメになってしまう」というメッセージを伝えるとします。過去に行ったり、未来に行ったりというやり方でできないかなということで考えたのが、「あなたが一番きれいになった」というイラストレーションです。原始時代のほうでは、豊かな森、山、きれいな川があって、人間はボロをまとっています。現代になると、人間はピカピカに輝いていますが、背景の森は酸性雨で枯れ、ゴミの川が流れています。きれいになったのは、人間だけということですね。

【その4:ライバルの視点】

4つめの方法として、「ライバルの視点」というのがあります。ライバルは誰かを想像し、ライバルとの対比で表現する。ライバルが加わることで何が起きるか? ライバルはどんな行動をするか? そのセリフと行動でメッセージを際立たせるという方法です。

「1975年に比べると北極の氷面積は60%ほどになってしまった。氷の大地がなくなると、イヌイットたちは狩りができなくなる」というメッセージを、ライバルの視点で考えてみましょう。どんなライバルがいるのかなと想像したときに、生まれたのが「犬ぞりリストラ時代」です。犬ぞりの犬のライバルは、海を走るアザラシなんじゃないかと。アザラシはシードッグともいいますからね。

(イラストレーション:本田亮)

【その5:キャラクター化】

生物でもないモノを主人公にしてみる。無機質なモノをキャラクター化して言葉を与えることで、意外な主張と行動を表現する方法です。

「地球温暖化防止について、国際会議で何度も話し合われたが、各国の欲が絡み合って、具体的進展はなかった」。こういう報道は、キャラクター化すると面白くなるんですね。温暖化の会議だから、キャラクターは全部雪だるまにしちゃいました。雪だるまが一生懸命会議をしていますが、全く決まらず、どんどんどんどん溶け出している「温暖化会議タイムオーバー」というイラストです。

【その6:常識の破壊】

最後は、常識の破壊です。地球の常識を変えてしまう。縦のモノを横に見る、逆さまに見る。動かないものを動かしてみる。ありえないモノやコトをビジュアル化して、スケールの大きなホラ話をするというやり方です。

「人間の数が78億人を突破してしまった。しかし、野生動物の個体数は20年間で40%も減少してしまった」という報道をどう伝えるでしょうか。僕は、引力が存在してない地球を考えて、動物たちがどんどんどんどん突き落とされていくという「地球おしくら饅頭」というイラストを描きました。

■うまくいく仕事の真ん中には必ずアイデアがある

アイデアの役割っていうのは、「芋虫を蝶にすること」だと僕は思っているんですね。芋虫と蝶って、好感度がまったく違いますよね。圧倒的に多くの人が芋虫嫌いですが、蝶は好きだっていう。でもよくよく見ると、蝶々の真ん中には、芋虫がくっついていたりするんですね。芋虫についている羽の美しさで好感度が高くなっているんです。

芋虫を蝶にするのがアイデアです。アイデアがあれば、どんな仕事もうまくいくんじゃないかなと僕は思っています。ミュージシャンでもベンチャー社長でも作家でも美容師でもラーメン屋さんでもいいんですけど、まず技術から学ぼうとしますよね。でも、技術はあとからだんだん身に付けばよくて、どんなものでも真ん中にアイデアがなくちゃだめだと僕は思っています。うまくいく仕事の真ん中には、必ずアイデアがあります。企画書、商品、本、エンターテイメント、サービスといったあらゆるモノで、アイデアがないのは、餡のないお饅頭と同じ。流行っているラーメン屋には、必ず、アイデアがあります。

■アイデアを考えるときにできること

アイデアを考えるときの心構えとして、基本中の基本となるのが「楽しそうだなぁ~」と思うこと。「大変だなぁ~」「頑張らなきゃ!」と思ったらもうダメです。クリエイティブはゲームなんですね。だから、心を柔らかくする、楽しむって気持ちがないとアイデアは浮かんできません。まずはリラックスです。

アイデアを考えやすくする方法のひとつは、「動く。外に出る。歩く。」です。目の前で起こるすべてのことがヒントになるんですね。なので僕はよく、電車企画というものをやります。電車に乗っているとどんどん風景が変わって、どんどん違う人が乗ってくる。それだけたくさんのモノが見えてきます。すべて自分に与えられたヒントだと思って、考えるんです。そのときは、手元にアイデアノートを置いておくことも重要ですね。

もうひとつ、アイデアを考えやすくする方法として「ひとりブレーンストーミング」があります。ブレーキをかけないアイデア会議で、マシンガンのように立ち止まらず、芋づる式にアイデアを発展させていきます。常にジョークも忘れずに。バカな発想の中にこそ、本質や面白いアイデアが隠れていることがあります。ここで大切なのは、思いついたアイデアを冷蔵庫に入れることです。冷却期間、時間を置いて見直すということですね。面白いと思った30個のアイデアも、1日置くと90%はつまらないですから。それから、お世辞を言わない人にアイデアを聞いてもらうことも大事です。

■アイデアが生まれる人になるために

アイデアがある人っていうのは、アイデアの引き出しがたくさんある人と、アイデアをすぐに引き出せる人なんですね。意外と多いのが、アイデアの引き出しはあるんだけれど、引き出せない人なんです。アイデアの引き出しをつくるには毎日新しいことを体験すること、すぐに引き出せるには、何でも面白がる心が大切だと思うんですね。このふたつがあることによって、いろんなアイデアが生まれる人になるんじゃないかなと思います。

体験はアイデアの母で、冗談はアイデアの父です。アイデアが生まれる人になるために、とにかく毎日ひとつ新しい体験を意識的にやってみるのがいいんじゃないかなと思います。毎日、「今日は何か経験しましたか」って、自分に問いかけてみる。何もなかったら、新しいことをひとつ加えればいいんです。新しい本をちょっと読んだとか、新しく番組を見るとか、そういうことでいいんです。何か体験数でひとつプラスしつづけていくと、1年で365個の体験を積み重ねることになって、それだけ新しいアイデアが生まれる可能性を手にしたってことになると、僕は思います。

ということで、今日は終わりたいと思います。ありがとうございました。