博士号取得者インタビュー
2019(令和1)年度 博士号取得支援助成金授与
2023年9月 鳥取大学博士号(工学)取得
中山 昭二さん (取得時66歳)
一般財団法人先端建設技術センター 参事役
【論文テーマ】
道路橋鉄筋コンクリート床版の内部水平ひび割れ検出法の開発に関する研究

少年時代の眼差しや憧れ転じて社会インフラを救うカッコいい博士に
ずうっと橋に興味を持ち関わってきた
近年、インフラ設備の老朽化や損傷による事故が多発し、問題になっている。埼玉県八潮市の下水管破裂による道路陥没、笹子トンネルの天井板崩落、木曽川大橋の主要部材の破断など……いずれも日常の点検では問題を発見できていなかった事故だ。損傷箇所の早期発見や劣化予防のための対策が急がれ、特に非破壊検査・試験の重要性が高まっている。中山昭二さんの博士論文は、そうした社会課題解決に希望をもたらす研究のひとつだ。
中山さんに博士号を取得しようと思った理由を尋ねると、ひと言「カッコいいから」とシンプル。カッコいい博士になるに至った経緯や、今後の展開について語っていただいた。
子どもの頃から橋に魅せられていた中山昭二さん。小学生では、図鑑のアーチ橋や吊り橋などの絵にわくわくし、中学生では、「ケーニヒスベルクの7つの橋」の問題を解くために熱くなった。高校の進路相談では「橋をやりたい」と宣言し、進学した大学では橋梁工学研究室に所属した。もちろん就職も橋。「上部・下部・基礎。新設も既設も、設計、施工管理、点検調査など、すべてを経験してきた」という*1)。50歳を超えた頃には、豊富な経験や専門性の高さから、高専や大学で授業を持つまでになっていた。
また、一般社団法人橋梁延命化シナリオ研究会の理事、一般社団法人インフラ新技術推進センターの代表理事など、社会貢献性の高い仕事でも活躍してきた。
研究室から実際の橋梁まで、計測・検出実験を重ねる
コンクリート構造物内部の劣化を発見するには、非破壊検査が欠かせない。中山さんの博論研究では、内部劣化が重大事故につながる可能性が高い橋梁において、通行車両の重量を直接支える床版内部のひび割れを、発見・検出するための計測システムの開発を目指した。それまでの検出方法では、目で見える程度のひび割れを発見するにとどまり、劣化状況を捉まえるには不十分だったのだ。



「見えないから仕方がない」では許されない時代にあっては、見るための不断の努力が重要*2)。当初は、加振機を用いて共振現象を発生させ、共振周波数を検出することにより、損傷箇所(内部水平ひび割れ)を容易に発見できるのでは? との見込みで出発した。その後、RC床版の内部水平ひび割れについて、コンクリートの挙動(共振した版の固有振動数を検出すること)が、アスファルト舗装上からでも検出できるのではないかという議論に進み、システムの開発とともに理論研究を進めた*3)。
研究室での小型の供試体から始まり、実験棟におけるハンドリング可能な供試体、さらに、実物大規模(幅3.3m×長さ6.5m、構造高1m)の供試体へと進んだ。しかし、大きくなるほどお金もかかり、実験棟で使うものでも2トンほどになる。中小企業庁のものづくり支援の補助金をもらったり、最終的には阪神高速との共同研究という形で、実際に使われている橋梁高架橋において計測・検出とその検証を行い、成果を得た。
プランを実行に移すのは苦労でもあったが、振り返れば充実感を感じる結果となった。
「確実」が最も重要かつ最も難しい命題
橋梁に限らず社会インフラの老朽化問題は今なお喫緊の課題だ。研究成果は、外から見えない損傷劣化を非破壊で検出する貴重な計測手法と自負している。阪神高速と協力して社会実装を進めていきたい。さらに、内部ひび割れは多数の橋梁で発見されているが、そもそも発生のメカニズムがわかっていない。これからそれを追究したいという。なぜなら、欧米の橋梁ではこの問題は起きていないからだ。
コロナ禍により研究活動を中断せざるを得なかった時期もあるなどして、研究期間は長期化したが、何世代もの若い大学院生たちと時間を共有した。博論の謝辞にも書いたが、学内だけでなく実橋梁における計測試験までたくさん協力してもらった。
「彼ら若い研究者や、当財団の支援を受けてチャレンジしようと思っている人にぜひ言いたいです。「誠実・技術・確実」をモットーにしてこれまで仕事をしてきましたが、「確実」が最も重要かつ最も難しい命題だと実感しました。きちんと仕上げる、成果として形にする、それが大事です。そして、好きこそものの上手なれ、あきらめたらそこまで、『自彊不息※』のスピリッツで臨んでほしいです。伊能忠敬が全国の測量を始めたのは55歳の時。葛飾北斎は75歳にして、努力をすれば百歳に至っても上手くなると言っています。昔から、取り組む姿勢に年齢は関係ないのです。」
博論の「謝辞」において、指導教官である谷口朋代教授ほか大学内外の多くの協力者に感謝の言葉を綴った。当財団の博士号取得支援事業の名もあげてくださった。そして最後に、「突然の病魔に侵され急逝した妻・ゆきに捧げます。」と結んだ。
※「自彊不息(じきょうふそく)」 中国の易経に由来。自ら弛まず努力を続けるという意味。あるいは、自ら励み一生懸命になっている様子。
【参考文献】
- *1)中山昭二:リレー橋友録『私の橋歴書』第998回,橋梁新聞,紙面掲載記事,2面,2019.9.21
- *2)宮川豊章,村田一郎,中山昭二,小林仁:「インフラ大量更新・維持管理時代を考える」座談会,日刊建設工業新聞,紙面掲載記事,11-13面,2014.3.27
- *3)中山昭二:道路橋RC床版の内部水平ひび割れの非破壊試験,(依頼投稿),月刊誌「検査技術」第23巻第8号,日本工業出版,pp.43-48,2018.7.20

