博士号取得支援事業

博士号取得者インタビュー

2020(令和2)年度 博士号取得支援助成金授与

2021年3月 静岡県立大学博士号(経営情報学)取得

芦川敏洋 さん (取得時62歳)

【論文テーマ】

地域経済の成長可能性(都道府県別・資本ストックと潜在GDPの推計を踏まえた実証分析)

芦川敏洋さん

「妻は書道家。分野は違うけれども刺激し合って、お互いに生涯続けられる仕事にできれば」と語る芦川さん。

47都道府県ごとの産業創出と活性化こそが日本経済再生の道

GDPを47都道府県別に分析

 国の経済成長や国際比較をするための指標とされているGDP(国内総生産)。芦川敏洋さんは博士号研究で、都道府県単位のGDPに着目した。日本経済は47都道府県経済の集合体であり、地域経済の成長可能性を分析し提言することが、日本経済再生につながるとの認識からだ。
 まずは、計量経済学的手法に欠かせない資本ストックデータとして、県民経済計算のフローデータを用い、資本形成累計額を積上げ算的に試算することで、47都道府県の潜在GDPやGDPギャップを推計した。国ベースで議論されていた資本ストックの伸びが経済成長に及ぼす効果や、成長の地域間格差は収束するのか発散するのかという論争について、47都道府県をサンプルにして検証を可能とした。

研究を地元静岡県の産業振興に活かす

 芦川さんは静岡育ちだが、大学と大学院は県外へ進んだ。卒業後は霞が関の官僚になることも考え国家公務員試験にも受かったが、特定省庁の分野だけでなく行政に幅広く関わりたく、静岡県庁に就職した。県庁ではのべ17年に渡って企画部に在籍し、県庁エコノミスト的な役割を意識して取り組んだ。
 35歳のころ、日本長期信用銀行のシンクタンクで2年間研修を受け、日本全体を見て静岡はどうかと考えるきっかけになった。また、慶應義塾大学大学院前期博士課程にも2年間公費留学のチャンスを得て、マクロ経済学の視点での地域経済分析に関心を寄せた。50歳を過ぎ、県職員として培ってきた地域経済分析に関する見識や成果を、博士論文にしたいと決意。静岡県立大学の後期博士課程に入学した。
 現在、静岡県立大の客員共同研究員として他の4名の教員と、地元の産業振興のための共同研究を進めている。論文審査にあたった教授が「これは面白い」と推してくれて始まったプロジェクトだ。静岡県はこれまで製造業が盛んだったが、今後振興していきたいとする医療・健康関連分野などで、産業の創出・発展を後押しする研究活動だ。

日本経済再生はどうすれば可能なのか

 現在の日本社会は、人口減少をともなった形での高齢化が進行しており、経済成長の面では他国と比較して低迷している。芦川さんの分析に基づく日本経済再生の可能性はあるのか。
 「日本は需要不足、買ってくれないから成長しないとよく言われますが、それは首都圏と一部地域(愛知、静岡)の姿でしかありません。関西を含むほとんどの地方は供給不足なのです。供給とは、生産を提供する投資と労働者です。生産拠点の地方分散などと並行して、地方ごとの特質を活かした産業の創出が欠かせません。地域レベルでマクロ分析をすると、山形県や長野県、京都府などは高い生産性を示します。他の地域も参考にできると思います。
 人口問題についても、子供の出生率が高いのは圧倒的に地方なのです。子育てがしやすいからと言われています。若者が地方に残って働ける産業があれば、適齢期の男女のバランスがとれて、人口減少が緩和されるはずです」

博士号取得で自信、複数の舞台で活躍

 チャレンジを迷ったり、途中で苦しんだりしている人には、困難をなんとか乗り越えてやりきることのメリットをアドバイスする。
 「私も定年前の1年間は仕事が大変で、実質的に休学状態でした。しかしやりきったときの達成感と自信は、人生の原動力になりました。財団の支援を受けることで、さまざまな分野の50歳以上の人が頑張っているのを感じ、さらに励みになります」
 やりきった芦川さんは、県庁での実務経験と博士論文を買われて、複数の肩書きで活躍している。先の静岡県立大学の客員共同研究員のほか、静岡社会健康医学大学院大学の総務担当理事、非常勤講師として静岡県立大学(地域産業論)と静岡大学(公務労働論)で教鞭もとる。

生涯学習情報誌 2022年8月号掲載記事より
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