博士号取得支援事業

博士号取得者インタビュー

2019年(令和1)年度 博士号取得支援助成金授与

2021年3月 立教大学博士号(社会デザイン学)取得

内藤眞弓 さん (取得時64歳)

【論文テーマ】

子育て女性医師のキャリア形成とジェンダー構造に関する研究

内藤眞弓さん

自分が“乱勉”してきた中で、他の人があまり言っていない意見や提案があれば書籍にしてきたという内藤さん。

博士号取得も本の執筆も、
仕事を続けてきたからできたこと

仕事をすることの大切さ

「FP(ファイナンシャルプランナー)なのにと、よく笑い話になるのですが、子どもは4人育てました。もちろん育児と家事は大変で、もっと時間がほしいといつも思っていましたが、今は博士号に挑戦できるくらい、時間もお金も自分のために使えます。当時はそんな未来がくるとは思いもしませんでしたが、あっという間でした。仕事をやめずに続けてきて、ほんとうに良かったと実感しています」
 その言葉には、頭で身につけた知識だけではない説得力がある。自らの人生を通して、またFPとして多くのお客様の悩み解決や夢の実現をお手伝いする中で培った知恵。あるいは充実した人生を送るための哲学と言えるかもしれない。夫のために、子育てのために、女性が築いてきたスキルや未来を閉ざさなくてもよい社会。それは、日本の課題となっている、生産性の高い社会にもつながるはずだ。

エリートと思われる女性医師でさえ

 内藤さんは、難病を抱えながらも働きたいと望む人達と関わった経験から、修士論文では難病対策法制化の民主的な過程を取り上げた。その流れで、女性医師が出産・子育てを理由に離職や第一線から退いてしまう問題に出合った。大学病院などでは、特に若手の医師の労働環境は過酷で、しばしば社会問題になる。また、そうした状況を背景として、いくつかの医学部の受験で女子が不利になるという入試不正も起きた。
 内藤さんは、女性医師のキャリア形成問題を医師の「働き方」の視点から捉え、女性医師にインタビューを始めた。医療現場では、短時間勤務や院内保育所など徐々に支援が整備されていたものの、有効な解決策にはならず、夫より収入が高くても離職するケースもあった。インタビューを進めるうちに、働き方ではなくジェンダー構造が深く関わっていると気づき、方向を転換。ジェンダー問題に強い教授の指導を受けるため、大学院を変えるという選択もした。男女格差のないエリートと思われる女性医師でさえ突き当たってきた壁が、低くなりなくなっていくことを願い、研究に取り組んだ。

質的データ分析法を限界まで駆使

 修士と博士の差はすごいと聞き、その山に登って景色を見たいと博士に挑戦。最初は査読論文の意味さえわからなかったが、一つずつクリアしていくのが楽しく、夢中になっていった。研究は、女性医師26名のインタビューを、佐藤郁哉さんの質的データ分析法で分析をした。一次的に先行研究から一定の枠組みを導き、それにあてはめて演繹的アプローチで分析をするという、かなり面倒な手法を用いたが、審査にあたった社会学の先生から「結果は驚くほど新しいとは言えないが、女性医師を一人ひとり丁寧に分析したことにすごく意義があり、論文的価値がある。そして佐藤郁哉さんの質的データ分析法を限界まで活用した好事例といえる」と評価された。
 分析の結果、女性医師が望むキャリアを継続するためには、家庭と職場どちらにおいても家事や子育てのサポート、そして上司や同僚との信頼関係が必要であると分かった。26名のうち19名は夫も医師。家庭内役割を担わなくても理解ある夫と妻から評価されるが、それ故に、医療現場では女性医師を厄介者扱いする側にいたりすることも少なくない。

博士の自覚を持って書籍や論文を提示

 博士号取得後、コロナ蔓延によって時間が生まれ、内藤さんは本を書いた。『お金・仕事・家事の不安がなくなる 共働き夫婦 最強の教科書』。研究内容を一般の共働き夫婦に当てはめ、具体的な解決策を提示した応援の一冊になっている。
 「働き方の問題もジェンダーの問題も、コロナによってずいぶん前倒しになったと思います。女性医師が適材適所でキャリアを形成できるような医療制度になっていくのか、その政策の方向性を見定めるような論文を、博士として書こうと思っています」

生涯学習情報誌 2021年12月号掲載記事より

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