博士号取得支援事業

博士号取得者インタビュー

22019年(令和1)年度 博士号取得支援助成金授与

2020年3月 東北大学博士号(工学)取得

足立昌哉 さん (取得時53歳)

【論文テーマ】

偏光技術を活用した電子ディスプレイの光利用効率の向上と視野角制御に関する研究

足立昌哉さん

博士号取得の経験を後輩の育成に役立てたかったが、取得直後からのコロナ禍に阻まれているという。

モバイル機器の進化に欠かせない
ディスプレイの偏光技術を研究

最短の1年で博士号を取得

 足立昌哉さんは、本支援事業の対象者の中でも最短となる、1年で博士号を取得された。東北大学には博士後期課程への社会人特別選抜入学制度があり、それを利用した。近年は各大学とも生涯学習需要を取り込むための諸策が行われているが、博士課程を1年で卒業可能とするには、それまでの専門分野での高い知識・技術、独創的な研究に加え、国際的に発信する技能なども求められる。
 足立さんが博士号にチャレンジしようと思った理由は二つ。一つは、所属企業の研究開発で海外の研究者と付き合うことも多いが、博士号を持っている研究者が少なくなく、周りからも評価されていた。自分もいつか取りたいと思っていたこと。もう一つは、若いときからその時々の要求に応えて、いろいろな技術開発をやってきたが、機会があれば過去の研究を整理・棚卸しして、今の社会潮流に合わせて再構築したいと思っていたことだ。

コロナ以後ますます注目される
技術

 移動通信システムの進化によって、モバイル機器を通じて、いつでも好きな場所で、大容量の動画コンテンツを視聴したり、機密性の高い情報にアクセスできる社会が実現しつつある。偶然にも、足立さんが博士号を取得した2020年3月以降のコロナ禍により、リモートワークが一気に推進され、関連機器や技術が注目されることになった。リモート機器に欠かせないのがディスプレイだ。
 博士号研究ではモバイル機器に搭載されるディスプレイに対し、①バッテリー駆動時間を伸ばすための低電力化、②プライバシー保護(覗き見防止)と利便性を両立するための視野角制御、の2点の達成を目指した。その際、ディスプレイの表示に利用されている偏光に着目。偏光とは電場の振動方向に規則性がある光のことで、屈折、反射、複屈折などの現象によって制御することが可能となる。偏光技術を活用した新構造を考案(特許化)し、実証を進めた。

くじ引きで決まった
研究分野だったが

 実は足立さん、大学時代にロボット工学がやりたくて修士課程に進んだものの、希望者が多くくじ引きの末、別の研究に進まざるを得なかった。就職後はレーザープリンターの技術開発にあたったが、その後自ら志望し、電子ディスプレイの研究開発に移り、液晶、有機EL、MEMSなど、その時々の先端のディスプレイの研究開発にあたった。また、関連企業横断的なプロジェクトや数十名規模の大型プロジェクトのリーダーを務めるなど、マネジメントの面でも経験を積んだ。「1年で博士号を取るのは自分プロジェクト。査読論文の執筆や国際会議での発表などは計画的に入学前に進めました」

50歳以上で博士号を目指す
もう一つの意義

 現在足立さんは、R&Dのプランニングをする部署に在籍する。社会の潮流を捉えて、それを実現する技術はどういうものか、分析をして人に説明をするところは、論文と通じるものがあるという。
 「会社の後輩にもぜひチャレンジしてほしいです。40代まではがむしゃらに仕事をしてきて、自分でも整理できていない状態です。論文にまとめるために、これまでやってきたことを系統立てて、大学の先生の視点でチェックしてもらうと、頭の中がスッキリした感じになります。自分がこれからどうしていきたいかを見極めていく機会にもなります。50歳を過ぎて博士号を目指すというのは、単にチャレンジというだけではなく、そういう意義もあるのではないでしょうか。私自身は棚卸しを経て、クリアな良い状態にあるので、コロナが落ち着いたら後輩の指導においても還元していきたいと思っています。
 本支援事業は一生学ぶ大切さに気づかせてくれます。さまざまな分野の方が応募し、同じように頑張っていることを知り、とても励みになりました。長く継続し、多くの人を支援してほしいです」

生涯学習情報誌 2021年11月号掲載記事より

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