跡見学園女子大学地域交流センター

助成金支給

跡見学園女子大学地域交流センター(センター長 土居洋平さん)

【研究テーマ】

文化財を活用した郷土学習と企画展実施による生涯学習効果の調査について
―旧伊勢屋質店を活用した子ども・住民・大学の連携から―

旧伊勢屋質店と蔵を活用して企画展を開催

樋口一葉も通った質店を郷土史教育の拠点として活用

 東京都文京区本郷に残る旧伊勢屋質店は、1860年から1982年まで続いた歴史ある質屋で、2016年には文京区指定有形文化財に指定されている。所有する跡見学園では、博物館的に建物公開や資料展示を行うとともに、「菊坂跡見塾」と称して地域の郷土史教育を担う拠点としても活用している。
 跡見学園女子大学地域交流センター(センター長 土居洋平さん)では、2020年度から、有志学生団体〈跡見「学芸員」in 菊坂〉とともに未整理の収蔵資料の整理活動を継続してきた。また、2022年度には「菊坂こども歴史探検隊」という街歩きイベント、発掘成果展「発掘された跡見女学校」、樋口一葉生誕150周年企画展「一葉と花圃」などを実施してきた。
 当財団助成金を活用して2024年2月18日〜24日に開催されたのが、成果企画展「質屋の記録〜見えてくる昭和初期の暮らし〜」。
 展示は3部構成。1つ目は、伊勢屋質店は樋口一葉にまつわる展示。父親が亡くなったあと家族を自分が支えるために作家になったが、家計が苦しいときに着物を質入れしてお金を作っていたようで、21歳〜24歳くらいのころに通った記録が残っている。

樋口一葉の筆による「蓬生日記」を展示。今月も伊勢屋に走らねば……と始まり、
「蔵のうちに はるかくれ行 ころもがえ」と締めて、着物を質入れする思いを句にしている

生涯学習の場でもある地域文化インタープリター養成講座

 2つ目の展示は、文京区からの委託事業で地域交流センターが担当している「文の京 地域インタープリター養成講座 成果パネル展」。インタープリターとは通訳者・翻訳者の意味。受講者それぞれが文京区の文化について掘り下げ、その成果を公開し広く発信する。10月から始めて2月までの5か月間・全15回の講座だ。受講した12名は年配者が多いが、39歳という人も。文京区民であれば誰でも申し込める。
 15回のうち最初は文学・考古学などの専門家の方の講義。後半が実践演習で、その中の2回は、今回の企画展とも連携し、昭和初期の伊勢屋質店の質物台帳の内容からどんなことを感じるか、学生とともに考えてもらった。
 12月中旬くらいから自分のテーマを見つけ、地域調べを行い、どういうデザインにするのか考え、分かりやすく伝えるためのパネルを作る。さまざまなテーマがあり、「文京区の歌人の窪田空穂について」「暗渠になって消えた音羽川について」「コーヒーサイフォンを発明した人は文京区にいた」「一富士二鷹三茄子の発祥は駒込ではないか?」などなどユニークだ。

成果パネル展の説明をしてくださった、跡見学園女子大学地域交流センター長で観光コミュニティ学部教授の土居洋平さん(左)と、助教の川副早央里さん

質物台帳から当時の暮らしや世相が見えてくる

 3つ目の展示は跡見学園女子大学の学生〈跡見「学芸員」in 菊坂〉による企画展で、テーマは「質屋の記録〜見えてくる昭和初期の暮らし〜」。「質物台帳」と呼ばれる分厚い帳簿には、上から順に、日付、取引番号、貸付金額、受戻し日、返済の有無、質草の種類・特徴、入質者の名前が書かれている。柳町支店の台帳には名前とともに住所も記されていて、どの地域の人がこの質店に来ていたのかもわかる。1937(昭和12)年11月9日から翌年1月16日までの2か月強の間に、総計941件の質入れがあり、うち624件が現在の文京区内の住人だった。逆に3人に1人は区外の人で、仕事先が近くだったのか、何か他の事情があったのか気になるところでもある。

 樋口一葉以外の著名人としては、旧華族で阿蘇神社大宮司家の阿蘇惟紀(これただ)、元内務官僚で4県(鳥取、香川、和歌山、愛媛)の県知事を務めた佐竹義文らが、この調査期間に伊勢屋を利用していた。
 1件の借付金額は1円〜10円くらいが中心。当時の物価は、ビール大びん37銭、学生服2円、ランドセル5円、東京—大阪航空旅客運賃25円など。
 質物は、和服61.4%、洋服18.7%、その他6.5%と圧倒的に衣類、それも和服が占めている。明治期に洋装が取り入れられ、あこがれの大正ロマンの時期を経ても、庶民の多くは和装だったことがわかる。記載された衣類の色柄から、当時の流行りの柄や世相も分析している。1937年といえば日中戦争が始まり、日常生活や消費に制限や不自由が出始めた時期。柄にこそ花や蝶があしらわれていたものの、色は茶色、黒、灰色などが多数を占めている。
 大部分は返済をし質物を流していないことから、質屋は、庶民が日常のやりくりをするための気軽な金融機関だったことがわかる。
 企画展期間中7日間で283人が訪れた。

1937(昭和12)年の「質物臺帳(しちもつだいちょう)」と記載内容
質入れされた着物の色や柄の分析から、当時の文化や世相にアプローチした。昭和12年ころに流行っていたと思われる着物の柄

跡見学園女子大学 旧伊勢屋質店(菊坂跡見塾)

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大桃綾子さん(Dialogue for Everyone株式会社 代表取締役)

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大桃 綾子さん(Dialogue for Everyone株式会社 代表取締役)

【研究テーマ】

都市部ミドルシニア層の地方におけるセカンドキャリアモデルの構築
―経験学習理論をベースに―

ミドルシニアが「越境学習」できるインターンシップ

 日本の労働力人口全体に占める45歳以上の割合は40%を超えている。大桃綾子さんが大学卒業後に就職した企業でも、3人に2人が50代以上。ミドルシニア層の社員が滞留し、若手の役割である部内の懇親会の幹事を、大桃さんは入社以来10年も担当した経験を持つ。
 大桃さんの業務は人事部門でタレントマネジメントなどにも携わっていた。力を持て余した50代の先輩たちが多くいるのを見て、もったいないと感じていた。「組織の中だけで考えるからうまく行かないのではないか。社会全体で考えるといろんなことがうまく回るのでは」と考えた。
 2019年に独立。都市部の40代、50代の会社員が副業として、地方企業の課題を共に解決するという事業をしていたが、大手企業で副業が認められ始めたのは2018年からで、増えてはいるものの、まだハードルが高かった。副業の前段として、「越境学習」という実践を通して自分のキャリアや強みを考えてみる、大人のインターンシップの研修プログラム提供を始めた。
 インターン受入先は、試行錯誤をした結果、地方に焦点を当てている。地方の成長途上にある企業とミドルシニアの経験やスキルは非常に相性が良いことがわかったからだ。受入先は現在、北海道から沖縄まで20地域以上に広がっている。

キャリアビジョンの実現に近づく相手企業をマッチング

 地方企業が求める人材は、緊急度は低いが重要度が高い課題の担い手であることが多い。経営者が戦略を立てる際の壁打ち相手になるような伴走役、マイルストーン策定、先行事例調査などだ。さらに、販路拡大にあたっての営業ツール整備やマーケティング支援。管理部門では、業務効率化のための会計システム構築、人事研修の企画、評価制度の運用改善などだ。雇用したくても人材がいなかったり、業務のボリュームが常時雇用するほどではなかったりするケースも多い。
 インターンシッププログラムは、月10時間×2か月、現在の業務と調整しながら、オンラインで無理なくできることが前提となる。人気があるのは、まちづくり関連、酒蔵、農業などだが、ではそこで自分が生かせるのかというとまた別だ。自分の強みや何を大切にしているのかという自己分析にコーチや仲間からのフィードバックを加えて、次のキャリアビジョンの最初の一歩となるマッチングをしている。

 大手生保勤務のAさんは、営業1本でやってきたので潰しが効かないという自己分析をしていたが、観光施設代表者の経営戦略策定の壁打ち相手として活躍した。

Aさんのインターンシップ先が共同経営する北海道帯広市の「とかちむら」

 化学メーカーで、研究、製造部門を経て品質管理に携わるBさん。設計や工程管理の能力を活かし、北海道の大規模農業法人にて、農産物の品質管理工程の策定を担当。

実際に農場に行って提案がうまくいくか確認したというBさん

 女性の自己分析で多い悩みは、自分に何ができるのか自信が持てないというケースだが、客観的にみるとインターンシップで高いスキルを発揮している。外資系企業の人事部で自信を失いかけていたCさん。自身の次をじっくり見直した結果、青森県の急成長中の企業の新人研修の仕組み構築に貢献した。

1か月のインターンで実施した課題整理のワークの一部

歳をとることがカッコいいなという社会に

 大手企業に長年勤めさまざまな業務を経験しているミドルシニアたちだが、共通するのは就社世代で社外経験がなく、自信が持てないこと。創業当初の事例が少ない段階でも、40代、50代の方が少しずつ変わってきたなという手応えを感じた。財団の助成金の申請をしたのはそのタイミングで、成功事例と言える方々へのインタビューを通して分析・検証をし、プログラムへのフィードバックを試みている。
 インターンシップ自体はオンラインで完結するのだが、約75%の人が実際に現地に行っている。打ち合わせを兼ねて訪れたり、単純に遊びに行ったり。インターンを機に完全に転職した人や、会社を辞めて次を探しているタイミングでインターンに参加する人もいて、特に女性に多い傾向だという。
 修了者の43%が副業やプロボノとしてインターンシップ先との協働を継続。ほかにも社内での新たな活動開始、転職・独立など、約9割が自身の新たなキャリアを実現している。
 「企業に在籍しながらインターンシップが受けられることはまだまだ知られていません。助成金のおかげもあり、こうやって事例が積み上がってきましたので、もっと多くの方にこのサービスを届けていきたいと思っています。40代、50代のミドルシニアの皆さんが頑張らないと日本が元気になりません。今はまだ、歳をとることがネガティブなイメージがありますが、むしろ “歳をとるってカッコいいな” という社会をつくって、若い人に引き継いでいきたいです」

セカンドキャリア塾

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木村浩子さん(盆栽環境研究会 代表)

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木村浩子さん(盆栽環境研究会 代表)

【研究テーマ】

盆栽という文化資源継承の一例:五葉松瑞祥の個体情報の調査
―瑞祥の系譜調査とそのデータベース開発―

現存する中で2番めに古い瑞祥・相模富士の前で、木村さん(左)と師匠と仰ぐ日本瑞祥愛好会実行委員長の山口一男さん。「盆栽は道楽、つまり楽しみを極める道。所有欲ではなく、楽しんで熱心に育ててくれる人に引き継いでもらいたい。そのためには、盆栽に触れて楽しめる機会や場所がもっとあるべき。若い木村さんたちの活動には期待したい」と山口さん。

 盆栽は海外でも「Bonsai」で通じるほど、日本が誇るべき伝統文化として認知されている。1989年に第1回世界盆栽大会が開催された。2017年には第8回がさいたま市で開催され、世界中から約1万2000人が来場した。今年は、第9回がオンラインで行われる。最も人気が高いイタリアでは、日本にも存在しない盆栽の専門学校もあるそうだ。
 そうした人気の一方で、国内の盆栽を取り巻く環境は他の伝統芸能などと同様、継承の危機にある。愛好者の高齢化、伝聞による栽培技術継承、コミュニティの閉鎖性、投機的売買による不適切管理などの問題も抱えている。そうした状況を改善し、現代に合った情報発信や交流による盆栽ファン拡大に取り組むのが、盆栽環境研究会の代表・木村浩子さんである。

「盆栽の困った」を「盆栽で楽しい」に

 木村さんが盆栽に興味を持ったのは10年前。長年科学機器関係の仕事をしていたが、植物を育てる仕事をしてみたくなった。花を植えたりフラワーアレンジメントを習ったりする中で出会ったのが盆栽だった。
 盆栽と聞くと、おじいちゃんの趣味という印象が強い。しかも繊細で育て方が難しく、素人がうっかり触って枝を折ったり鉢を割ったりしたら大変なことになりそうだ。しかし、実際に向き合ってみるとおおむね偏見であることがわかるそうだ。
 2019年に盆栽環境研究会を立ち上げた。グループチャットで交流をしながら、ワークショップや展示会などのイベントを通して、「盆栽の困った」を減らし「盆栽で楽しい」環境づくりに取り組む。

昭和の名木「瑞祥」の系譜をデータベース化

 瑞祥とは、五葉松の一種で、他の松よりも葉が短く密集している。その特徴は、自然界の勇壮な松の大木を鉢の上の風景として表現するのに適している。また、他の松よりも成長が早く、個人が関与できる数十年で鑑賞できる作品に育てられる点でファンも多い。とはいえ、名がつくような盆栽は人間より長生きするのがあたりまえ。人から人へと受け継がれる。日々の手入れ次第で良くも悪くもなり、完成はない。
 瑞祥の祖木は昭和初期に、神奈川県の藤崎万吉氏が苗木の状態で見出したとされる。培養された後、戦後の展示会において注目を浴びていった。鈴木佐市氏によって1959年に「瑞祥」と命名された。
 祖木はすでに枯死してしまったが、祖木から、挿し木や取り木という方法で繁殖され、受け継がれてきた。動物の血統にも似ているが、DNAを種子によって引き継ぐのではなく、親木の一部を新たな子木として培養する。木村さんがデータベース化した60株あまりの瑞祥はすべて、90年ほど前の祖木・聖龍の100%分身なのだ。

挿し木

取り木のため幹から根を出させる

盆栽以外の文化継承にもつなげたい

 今回の調査では、文化資源として優れた盆栽・瑞祥の、祖木から繁殖した系譜をできる限り明らかにし、不明情報や新たに生まれる個体も追加できるデータベースを作成した。また、『瑞祥培養ノート』として、その歴史、育て方、繁殖方法などをまとめた。先人の知見や試行錯誤に基づくものだが、これまで伝聞や見よう見まねによって継承されてきたことを体系的にまとめ、入門者でも理解しやすいテキスト化をした。歴史と奥深さを持ち、生涯にわたって楽しめる盆栽文化。ファン拡大と同時に、文化資源継承のノウハウとして他ジャンルでも活かしたいとしている。

生涯学習情報誌 2022年8月号掲載記事より
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考古学者 ニコラス・リーヴス氏

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インタビュー1 考古学者 ニコラス・リーヴス氏

研究テーマ

古代エジプト アマルナ時代の研究 ―「王妃ネフェルティティの墓の仮説に基づく調査・研究」古代エジプト アマルナ時代の研究 ―「王妃ネフェルティティの墓の仮説に基づく調査・研究」

ツタンカーメンの墓の奥に王妃ネフェルティティが眠る?
財団が助成した調査にいま世界中が注目!!

21世紀最大の発見? ニュースが世界を駆け巡る

 財団が昨年10月に助成した、イギリス人考古学者ニコラス・リーヴス氏の調査に世界が注目している。「古代エジプト三大美人」の一人でツタンカーメンの義母としても有名な、王妃ネフェルティティの墓が、リーヴス氏の仮説通り発見されそうな予感からだ。
 ネフェルティティの夫のアクエンアテン(アメンホテプ4世)は、BC1368年頃、太陽神アテンの一神崇拝を掲げてアマルナ遷都を行ったファラオだ。この遷都には、神官たち多くの反対勢力が存在した。アクエンアテンと次のファラオであるスメンクカーレーの死後は、アクエンアテンの幼い息子・ツタンカーメンがファラオに即位するが、反対勢力に同調し元の首都や多神教に戻ることになる。
 実はこのアマルナ時代の明確な記録はほとんど残っていない。アクエンアテン、スメンクカーレー、ツタンカーメン、アイの4代は、次のファラオとなった軍人出身のホルエムヘブにより王統図から抹殺され、歴史が書き換えられてしまったからだ。
 ネフェルティティは特に謎に満ちていて諸説あるが、リーヴス氏は、アクエンアテンからファラオを継いだスメンクカーレーこそが、ネフェルティティのもうひとつの名だという説をとる。ファラオの共同統治者であり、名を変え次のファラオについたほどの権力者ならば、立派な墓があるに違いない、にもかかわらず、どこにも見つかっていない。

ツタンカーメンの墓の壁面スキャン画像に注目

 ツタンカーメンの墓は、黄金のマスクのイメージから立派な墓と思われがちだが、実は他のファラオの墓と比べるとあまりにも小さいのだ。リーヴス氏の仮説はこうだ。
 「19歳の若さで急死したツタンカーメンには墓の準備がなかった。そのため急遽、すでにあった義母で先王のネフェルティティの墓の中に部屋を増築し、ツタンカーメンを埋葬したのではないか。その推理が正しければ、墓のさらに奥には、本来の墓の主であるネフェルティティが眠っているはずだ」
 この仮説のきっかけは、エジプト政府がツタンカーメンの墓のレプリカを造るために撮影した、壁面の高精細スキャン画像を、リーヴス氏がさらに分析したことからだった。
 壁の凸凹を強調して精査すると、まず、西の壁に小さな入口の形跡が見えてきた( A )。この入口は、周囲の石とは違う質の土などで埋められている。入口のサイズも、すでに発見されている東側の収納室Bや南西に離れた収納室 C の入口と同サイズなのだ。この壁の向こうには、 BC と同様の埋葬品を納める別室があるに違いないと考える。

北の壁にも奥の部屋がある予感

 北の壁のスキャン画像にはさらに多くのものが確認できた。先の A よりも大きい通路のような空間を埋めた跡 D 。ここも周囲の岩とは質感が違い、もともと埋められていたツタンカーメンの石棺がある部屋の入口 E と近い構造と推測する。この先にも比較的大きな空間があるのではないか。
 それを補完するのが天井近くのヒビ割れ F と、天井から床に向かう垂直の痕跡 G だ。F のようなヒビ割れは、現代建築でも、部屋と部屋の間の壁が重力によって引っ張られたり、縮んだりした際に、部屋の端にできやすい。G は前室の H の壁の延長上に位置し、元々壁だったところを後から西方向に掘り進めたために残った跡と考えられる。つまりこの部屋は元々は通路だった可能性が高く、その先に然るべき埋葬空間があるのではないか。
 ツタンカーメンの埋葬室が後から作られたと推測する証拠はまだある。4面の壁画のうち北面の G の位置から右半分だけが下地の色が白で、他の面は黄色地になっているのも、理由があってのことと思われる。

もう一人埋葬されてるとしたら誰?

 元々ネフェルティティの墓だと推測する根拠もいくつかある。地上から階段を降りて右に曲がって埋葬室に向かうのは王妃の墓の特徴であること。ファラオの墓は左に曲がるのが標準だ。
 北面の壁画の右端はツタンカーメン( X )に「開口の儀式」を執り行う次のファラオのアイ( Y )だとされている。しかしその横顔を彫像と比較すると、別の見方ができる。X の口元はネフェルティティの像の口元と特徴が似ている。Y の顔は高齢だったアイにしては若く描かれ過ぎ、顎の形はツタンカーメンの像の顎によく似ている。もしかしたらこの絵は、亡くなったネフェルティティに「開口の儀式」を執り行うツタンカーメンを描いているのではないか。
 ツタンカーメンの黄金のマスクには、ネフェルティティの名前が記されていることが別の調査で判明している。ネフェルティティがスメンクカーレーと同一人物なら、2つのマスクが作られた可能性がある。王妃としてとファラオとしてだ。ツタンカーメンを埋葬する際に、一方のマスクを転用したのではないか。

小さな取っ掛かりを大切に

 「何もないかもしれないし、あってもネフェルティティの墓ではないかもしれません。しかし、もしかしたら世紀の大発見に至る可能性もあるのです。それは、スキャン画像という小さな取っ掛かりを穴があくほどじっくり見たからです。人生も同じです。自分にこんなチャンスが訪れるなんて想像していませんでした。小さな興味を大切にしなくてはいけません。ですから、財団が50歳以上の博士号取得を支援する事業には共感します。松田妙子理事長が71歳で東京大学の博士号を取られたのもグレートです! 何歳で始めても遅くはありません。私も余裕ができたらですが、次はぜひ日本の考古学を研究したいと思っています」
 11月にエジプトに渡ったリーヴス氏らは、日本製レーダー機器などで壁の向こう側を調査。11月末に世界に発信されたニュースでは、壁の向うに部屋か石棺かもしれない空間があること、エジプト考古相が「確率は60%から90%に上がった」と発言したことが伝えられている。今後もぜひご注目を。

昨年10月22日に財団を訪れたリーヴス氏と財団事業部長の佐藤。
本誌の「日本の技」シリーズのインタビュアーでもある上野由美子氏が、リーヴス氏の片腕として調査に同行している。リーヴス氏は1956年生まれ。古代エジプトに魅了された多くの少年の一人で、友人たちが卒業していく中、自分だけは興味を持ち続けた。13歳の頃にはボランティアで博物館を手伝い、学芸員たちを驚かせていたという。

今回の調査の様子は、同行しているナショナルジオグラフィックの日本語版Webサイトでご覧になれます。
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/15/120200344/?P=1

助成金支給

助成金支給

助成金支援事業は、生涯学習を推進するための研究・調査を援助するものです。この事業に採用された団体や個人の方の活動をご紹介します。

助成金支援事業とは

大桃綾子さん
令和3年度助成金支給者

大桃綾子氏

40代、50代のミドルシニア人材が組織の中でくすぶっているのはもったいない! そんな思いから立ち上げたセカンドキャリア塾。企業に在籍しながら、プロのサポートによる自己分析+地方企業の課題解決など実践的なインターンシップが行える。自分では見えなかった自身の強みや今後の方向性が明確になり、修了生の約9割がなんらかの新たなキャリアを実現しているという。

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木村浩子さん
令和2年度助成金支給者

木村浩子氏

盆栽は海外でも「Bonsai」で通じるほど、日本が誇るべき伝統文化として認知されている一方、国内の盆栽を取り巻く環境は他の伝統芸能などと同様、継承の危機にある。そんな状況を改善するべく、現代に合った情報発信や交流による盆栽ファン拡大に取り組む。【2022年8月号】

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山口揚平氏
令和2年度助成金支給者

山口揚平氏

激動している現代社会では、仕事をするための実践的な知識やスキルを、いつでも学び直せ、職務能力を向上できるような環境整備が必要ではないだろうか。そこで山口さんは、シンガポールの公的なWSQ(労働者技能資格)を参考に、「日本版WSQ プラットフォーム」の実現に向けて活動を行っている。【2021年10月号】

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森田佐知子氏
平成30年度助成金支給者

森田佐知子氏

自身の就業経験をきっかけに生涯学習を研究するため大学院に進学した森田氏。生涯学習先進国の北欧に出向き調査した。スウェーデンでは大学がキャリアカウンセラーを育成し、博士課程まである。その充実した対応を論文にまとめた。【2020年7月号】

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奥四万十山の暮らし調査団
平成30年度助成金支給者

奥四万十山の暮らし調査団

地名はその土地の歴史や文化の象徴だが、合併などで失われつつある。「奥四万十山の暮らし調査団」は、そうした地名を高齢者から聴き取り、後世に伝える貴重な資料として本にまとめ、webでも情報を発信している。【2020年6月号】

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高齢者を対象とした幸福度を高める外国語学習開発に向けて
平成29年度助成金支給者

入江恵氏

入江恵さんは、超高齢化社会になりつつある日本で、高齢者が外国語を学ぶ理由を、臨床心理学などで用いられてきた質的調査法Life Story Narrative分析を用いて調査している。その研究報告会が2019年5月に行われた。【2019年6月号】

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有田とフランス人間国宝「ワザノワ会議」
平成30年度助成金支給団体

ワザノワ会議準備室

日本とフランスは、ともに伝統文化を尊び、人間国宝(フランスではメートル・ダール)の制度がある。ワザノワ会議準備室は、そうしたフランスの“国宝”作家を有田に招き、共演展示やワークショップを開催。国境を越えた芸術祭を実現した。【2019年4月号】

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一般社団法人 日本英語交流連盟
平成29年度助成金支給団体

一般社団法人 日本英語交流連盟 

日本人が英語で対話し、交渉できるよう、大学対抗ディベートや企業研修を実施している当連盟の、2017年に開催された20周年記念公開シンポジウム『英語を使い世界に活路を開く』の様子を報告する。【2018年12月号】

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すこやかネット研究会
平成28年度助成金支給団体

すこやかネット研究会

大阪府の事業「すこやかネット」は、教育に関する課題を学校・地域・家庭が共有し、問題解決に向けた取り組みを行う仕組みだ。この「すこやかネット」を支援するための民間評価機関が「すこやかネット研究会」だ。【2018年3月号】

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技collection
平成28年度助成金支給団体

技collection

器をメインに、日本の伝統工芸品や職人の思いを未来に繋いでいくための活動をしている非営利団体、技collection。2016年11月末にパリで開催された展覧会では、花をテーマに着物、書、器を紹介した。【2017年3月号】

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考古学者 ニコラス・リーヴス氏
平成27年度助成金支給団体

考古学者 ニコラス・リーヴス氏

リーヴス氏は古代エジプト史の研究家で、ツタンカーメンの義母、王妃ネフェルティティの墓の在処を自らの仮説に基づき推測。現地に赴いて行われた調査の成果は、ナショナルジオグラフィックも注目している。【2016年1月号】

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