生涯学習情報誌
ようこそ!和楽器の世界へ
五.津軽三味線 tsugarusyamisen
力強さと繊細さで多くのファン
「叩き」と呼ばれる奏法、特徴的な「さわり」の音、速弾き。和楽器の中でも異質な発達をとげた津軽三味線を紹介してくださるのは、「AUN」の井上公平さんです。
太棹三味線の代表格で、「叩き」と呼ばれる独特の奏法による力強い音と、速弾きのリズミカルな音階が幅広い世代のファンを惹きつける津軽三味線。高橋竹山の著書によると、祭りの際、他のボサマ(盲目の門付芸人)より目立つように、より大きな音、派手な技を追求するようになり、三味線は太棹に、撥は速弾きに適した小振りなものになって、打楽器的奏法である叩きが発達したのだという。
津軽三味線の楽曲の原型は、新潟地方のごぜ (盲目の女旅芸人)の三味線で、北前船で青森県津軽地方に伝わったとされる。幕末に五所川原に生まれたボサマの「仁太坊」が始祖ともいわれ、それまで門付け芸として低く見られていた三味線に革新的な奏法を取り入れ、津軽三味線の原型を築いた。
昭和40年代の民謡ブームで一世を風靡し、三橋美智也らが津軽三味線と称して、定着を見る。本来は伴奏楽器として舞台袖で演奏するものだったが、時代が進むに連れ、三味線の前奏部分が独奏として独立していった。以後、高橋竹山らの活躍によって、広く知られるようになり、現代音楽として若者の支持を得るなど、他の三味線とは異質な発達を遂げた。
津軽三味線の皮は、以前は犬皮を使用していたが、動物愛護の観点から人工皮(リプル)が使われることが多いという。
奏者に聴いたその魅力
井上公平 Inoue Kohei
井上兄弟の双子の弟。2000年、兄 とともに「AUN」を結成。世界34カ 国にわたる演奏活動が認められ、06年 国土交通省「ビジットジャパン・キャンペーン」をプロデュース。日本の伝統と今を伝える和楽器奏者、日本が世界に発信する新しい形として注目を集める。また、森林保護を推進する環境 保護プロジェクト「株式会社ハートツリー」と協力し、売り上げの一部を里山再生に寄付する活動も行う。
鬼太鼓座(おんでこざ)に入って、初めて和楽器による音楽があると知りました。それまでは、祭りで太鼓や囃子が聴こえてきたくらいで、音楽という認識もなかったです。私にとっては鬼太鼓座が和楽器の道のスタートと言えます。
30年前は若い人が和楽器などやってないし、三味線はオジサン・オバサンがやる楽器というイメージでした。鬼太鼓座の舞台を見た時に、若い人でも楽しめる音楽を、和楽器で演奏できるのだと感心しました。そのときに先入観を払拭できたことで、一歩を踏み出すことができました。
最初は高橋竹山さんの弟子・竹女さんに習いました。初めて津軽三味線を聴いた時は日本音階のメロディが入って来なくて、一体これは何だという感じでした。元々、ギターをやっていたのですが、実際に取り組んでみたら、ギターとは全く違っていました。この段階でさらに興味を持ち、やってみようという意欲が湧きました。
知ってほしい津軽三味線の魅力は?
和楽器の中では歴史が浅く特殊ですが、演奏者は多いです。人を魅了する激しさと繊細さをあわせ持つ楽器で、抑揚をつけてムードを盛り上げることができます。
三味線独特のビヨーンという「さわり」が特徴的ですが、下の写真のように一の糸の下に突起を付けて、わざと共振させているのです。海外公演で感じたことですが、アコースティックギターやヴァイオリンの澄んだ音に耳慣れたヨーロッパの人は、さわりは最初はノイズに聞こえるようです。 そうした魅力にも気づいてもらえればと思います。西洋では和音で感情表現をすることが多いのですが、和楽器では、単音の鳴らし方一つでさまざまな情景を表現するところも面白いですよ。
音を聴いてみよう!
シリーズでご紹介している和楽器の音色を聴くことができます。
第五回は「津軽三味線」の演奏をお楽しみください
監修者:AUNプロフィール
井上公平・井上良平。1969年大阪にて5人兄弟の末の双子として生まれる。1988年、和太鼓集団・鬼太鼓座(おんでござ)に出会い、高校卒業と同時に入座。2000年に「AUN」として独立。2009年、邦楽界で活躍する若手を集めて「AUN Jクラシック・オーケストラ」を結成。公演回数は国内外で1400回以上。子どもたちに日本文化の魅力を伝えるため、全国の小学校を訪問し、和楽器演奏と桜を植える活動もしている。
AUNの最新情報、ライブのご案内などは公式サイトをご覧ください。
http://www.aunj.jp