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10. ロミオとジュリエット 10. ロミオとジュリエット

1968年に封切られた映画「ロミオとジュリエット」。中学生のときにこの映画を観て強い衝撃を受けた鬼塚氏は、2020年5月、原作の戯曲を現代語訳の小説にした。その過程で見つけた、映画の驚きのエピソードを披露する。

戯曲の舞台となった北イタリアの美しい街ヴェローナ

 コロナ禍真っ只中の今年5月20日に、シェイクスピアの戯曲「ロミオとジュリエット」を現代語で小説化し、上梓させていただきました。これは、光文社が刊行する「小説で読む名作戯曲シリーズ」の中の一冊です。

 世の中には、古典の名作と呼ばれる物語が多く存在しますが、実はその中の多くが戯曲なのです。チェーホフの「桜の園」、近松門左衛門の「曽根崎心中」などなど、 時代を超え、現代にも通用する物語ですが、それらは舞台になるために書かれた戯曲です。
戯曲は役者を通して、舞台で物語を表現する形態で、内容は良くても、大掛かりなために、気軽に堪能するにはハードルが高すぎます。また戯曲のまま読むにしても容易ではありません。
そこで、これらの戯曲を、わかりやすく現代語で小説化し、できるだけ多くの方々に味わってもらおうという試みがこのシリーズの趣旨です。
この戯曲「ロミオとジュリエット」が初めて世に出たのが1595年と言われています。私が2011年に上梓した小説「花いくさ」も日本の戦国時代を描いたので、まったく同じ時期の日本とイタリアを、私は描いたことになります。何か感慨深い気持ちで作業にあたりました。

『小説で読む名作戯曲 ロミオとジュリエット』
(光文社「小説で読む名作戯曲シリーズ」) 鬼塚 忠(著) シェイクスピア原作

中世北イタリアの街を舞台とした、世界一読み継がれる恋物語。「どうしてあなたはロミオなの。モンタギューなんて名前は捨ててしまって。それが無理なら、わたしを愛すると言って。そうしたら、わたしがキャピュレットの名前を捨てるから」
14世紀、北イタリアの街・ヴェローナで、100年を超えていがみ合うキャピュレット家とモンタギュー家。仇どうしの名家にそれぞれ生まれ、一瞬で強く惹かれ合ったロミオとジュリエット。二人の情熱的な恋と、悲しい物語の行方を、小説で味わう。

 この映画の公開は1968年。既に半世紀以上も経ち、私はこの映画は何度観ていますがまったく飽きない。不思議なほどです。
 物語が起伏に富んでいること。撮影したイタリアの風景がとても美しいこと。そして、主役の二人、ロミオ (レナード・ホワイティング)とジュリエット(オリビア・ハッセー)が魅力的だからでしょう。この映画がすべての恋愛映画の出発点とさえ言われていますが、納得のいく表現です。

 この映画の背景を調べていくうちに分かったのですが、この二人は公開50年目に対談をしています。それが動画サイトで流れていました。そこでこんなことを告白しています。
ロミオ役のレナード・ホワイティングはイギリスのロンドンで生まれ育ち、英語はネイティブなはずですが、プロデューサーに言われ、撮影に入るまでの半年間、英語の発音を矯正するためにあるベテラン俳優の家に住まわされたそうです。彼は下町生まれで、柄の悪い下町の英語(コックニー)は話せても、標準的な英語を話せなかったそうです。日本でいうと、浅草生まれのシャキシャキ江戸っ子が、標準語をまったく話せないということでしょうか。

 私も20代、イギリスのロンドンで2年ほど過ごしたので、このことは肌で感じていました。イギリスは階級社会で、テレビの報道番組などで聞く標準的な英語と、下町で話す英語はまったく違います。私がイギリスに滞在していたのは1980年代後半なので、マーガレット・サッチャーが首相を務めていましたが、彼女の英語もまた違います。さらにいうと、その頃でさえ、ロンドンのサークルライン(ロンドンの山手線)の中の半分は外国人と言われていたので、彼らは母国語のなまりがはっきりありました。ロンドンではかなり多種多様な英語が使われていました。

 話はそれましたが、さらに面白いことに、このロミオ役ははじめビートルズのポール・マッカートニーを想定していたそうです。ポールはその申し出を断ったそうですが、もし受け入れたとしたら、また違った映画になったのではないでしょうか。
この映画の一つの特徴が、劇中で頻繁に流れるニーノ・ロータの作曲する音楽です。彼はイタリアを代表する映画「ゴッド・ファーザー」など哀愁漂う音楽を数多く作曲しています。映画のイメージを決定づける音楽を作ったとも言えます。
もしポールが求めに応じて主役を務めていたなら、当然のこと、劇中音楽も担当したでしょう。もしそうだとしたら、ビートルズの「ミッシェル」のような音楽になったのかなぁ、などと考えるのもまた楽しいものです。

 美しい英語が話せなかったのは、レナード・ホワイティングだけではなく、実はジュリエット役のオリビア・ハッセーも同じです。彼女はアルゼンチンで生まれ育ち、両親が離婚したため、8歳で母の母国であるイギリスに移住しています。なので英語は完璧ではなかったそうです。インタビューを聞くと、今でも多少、なまりを持って話しているように聞こえます。

 私が初めてこの映画を見たのは中学一年の頃の思春期にさしかかろうとする頃で、この映画にとにかく強い刺激を受けました。それは、正直言うと、映画の素晴らしさと同時に、妖精のようなオリビア・ハッセーが、映画の中で胸をあらわにしたことも理由の一つです。性に芽生える13歳の少年には刺激が強く、心臓が破裂しそうになったことを覚えています。そして、その後に、布施明がこのオリビア・ハッセーと結婚したというニュースが流れてきました。なぜか、軽く嫉妬しました。

 まあ、そういった個人的な思い入れ話はさておき、その後も、この映画はなぜこうも記憶に残るのだろうかとよく考えました。名作は、あとあと考えると、現実には絶対あり得ない設定となっていると気づくに至ったのです。
ロミオとジュリエットは、13歳と14歳、つまり現代でいう中学一年生と中学二年生。その二人が、出会ったその瞬間に恋に落ち、その夜にベッドを共にし、翌日の午前中には結婚します。そして、その午後にはジュリエットの親戚を殺している。そういう設定です。
映画「タイタニック」もそう。「ロッキー」もそう。 海外の名作には、現実にはあり得ない話が多い。

 私の作品も、たびたび、映画化されたり、テレビ化されたり、舞台化されたりしているのですが、こういう設定の話をプロデューサーにすると、間違いなく、「現実ではあり得ないでしょ。リアリティなさすぎ。荒唐無稽ですよ」と一蹴されるのが目に見えます。
「そういう生真面目さがあるから、日本映画はなかなか面白いものを作れないし、世界に出ていけない」と心のなかで思っていますがなかなか面と向かって言えません。むしろそのように、思ったことを素直に口に出せないことこそが、日本人であるのです。

鬼塚忠(おにつか ただし)
1965年鹿児島市生まれ。鹿児島大学卒業。卒業後、世界40か国を放浪。1997年から海外書籍の版権エージェント会社に勤務。2001年、日本人作家のエージェント業を行う「アップルシード・エージェンシー」を設立。現在、経営者、作家、脚本家として活躍。「劇団もしも」も主宰している。
著書:『海峡を渡るバイオリン』(2004年フジテレビ45周年記念ドラマ化。文化庁芸術祭優秀賞受賞)、『Little DJ』(2007年映画化)、『僕たちのプレイボール』(2012年映画化)、『カルテット!』(2012年映画化)、『花戦さ』(2017年映画化。日本アカデミー賞優秀作品賞受賞)など多数。
http://www.appleseed.co.jp/aboutus/aboutceo.html

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