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6. 定年博士 6. 定年博士

生涯学習開発財団は、50歳以上の博士号取得支援をされていますが、故・松田妙子理事長の71歳での博士号取得を手本として制度化したそうです。私からもぜひ紹介したい、博士号取得者がいらっしゃいます。吉岡憲章氏。70歳になって学びたい気持ちを抑えられず、大学院に入学し、77歳で博士号(経営情報学 Ph.D.)を取得。そして、その知見を今なお現場で生かしているとか。

左)鬼塚忠が吉岡憲章さんにインタビュー
右)吉岡憲章
未来事業株式会社 代表取締役
経営プロデューサー 博士(経営情報学)、MBA

鬼塚 この度は博士号の取得おめでとうございます。まずは先生の今までの経緯を簡単にお話いただけますか?

吉岡 今日はお招きありがとうございます。私は、この世に生を受けてから長いですからね(笑)、かいつまんでお話ししましょう。
 私は1941年、太平洋戦争開戦となる真珠湾攻撃の2か月前に中国上海で生まれ、終戦の翌年の1946年に日本に引き揚げてきました。
 1963年に早稲田大学の理工学部を卒業し、日本ビクターに入社しました。技術者でしたが経営に関心があり、企画課長など事業経営に携わる仕事に従事しました。
 経営トップが松下幸之助翁でしたので、感化され、松下イズムを世の中に広めたいと思うようになりました。そこで入社11年後の1974年にビクターを卒業して、中小企業を対象にした経営コンサルティングの会社を創業しました。しかし、当時は中小企業の経営コンサルタントという概念がなかったため、学ぶべき先人もいません。参考にする書籍もありません。それならば、と自分自身が起業して、経営とは何か、中小企業の社長は何を悩むのかなど現場で実体験しながら、経営コンサルタント業を続けました。
 まず始めに町工場を創業し、下請けの屈辱や資金繰りの厳しさなどを味わいました。その後、自ら商品を開発し、メーカーへと脱皮しました。さらには居酒屋など13もの会社を創業し、各業種の経営を体験していきました。その結果、「常識破りの再建請負人」と言われるに至り、2002年に「潰れない会社にするための講座」(中公ラクレ)を上梓し、鬼塚さんのご支援で、その後7冊の出版に至りました。

鬼塚 すごいご経験ですね。それがなぜ大学院を目指すことになったのですか?

吉岡 はい。私のモチベーションは、困っている中小企業の経営者を助けたい、という思いです。その思いを糧にがむしゃらに働き、50代60代で行った中小企業の再建は成功した例が多く、金融機関などからそれなりの評価を得たのです。しかし、それは私の経験から導かれた勘所に頼るところが大きく、コンサルタントとしてもう一段高みを目指すために、今まで実践したものを論理的なものにし、社会に貢献したい、学問としての企業再建論にしたいと考えはじめました。それは60歳を過ぎた頃でした。10年間その思いがもやもやし、満を持して、70歳で多摩大学大学院に入学したのです。そして2019年に研究論文をご評価いただき、経営学博士号を賜ることになったのです。

鬼塚 おめでとうございます。人生に対する意欲がすごいです。普通、70歳というのは現役から退く年齢ですよ。それが70から大学院に入って、なお学びたいとか、まだ社会に還元したいとかというその意欲は脱帽です。とはいえ、70歳です。博士号取得を目指すなかで、諦めずに続けられるだろうか......、健康、お金、それぞれ不安もあったのではないでしょうか。よければそのときどきで抱いた不安を聞かせてください。

吉岡 やはり健康が不安でしたね。まず、大学院の修士課程に入ろうと思った矢先に前立腺癌を宣告されました。その時には、もし私が生還できなかった時のことまで考えて遺言状まで書きました。幸いにも、いまは快復し、この通り元気になりました(笑)。
 また、経営コンサルティング会社の経営を続けながらの論文研究です。時間をどのように捻出するかが大きな課題でした。研究を優先し、博士号取得まではすべての時間を充てました。その上で、土日はフルタイム、平日でも業務の準備を終わらせてから毎日夜中の2時、3時まで論文研究にのめりこみました。

鬼塚 途中でくじけそうになったこともあるかと思います。そのときはどのようにして乗り切ったのですか?

吉岡 社員と妻に助けられました。論文執筆には膨大な時間が割かれるので、社員の理解も必要です。博士号を取得すると宣言し、かかる負担を了承してもらいました。妻にも感謝しています。この博士論文への挑戦だけではなく、独立するときも、関連した上場企業が破綻して、自分の財産を投げうったときも、いつも嫌な顔ひとつせずに認めてくれました。これが、私がここまで来られた要因です。だから、今回の博士号は社員や、妻など皆で得たものと思っています。
 論文指導教授のアドバイスもよかった。私が混乱していると夜中でもヒントとなるメールを送ってくれました。いい論文が書けると激励をしてくれたりもしました。だから、途中であきらめるわけにはいかない、絶対投げ出すわけにはいかないという思いになりました。

鬼塚 いろんな方に支えられての博士号なのですね。もうひとつ聞きたいのは、若い人と比べて記憶力や理解力は落ちると思います。そのハンディはどうカバーしましたか? 70歳なり勉強の仕方など教えてください。

吉岡 まさに、ついさっき何を言ったかさえ忘れてしまうことが度重なるような年齢です(笑)。論文研究にあたっては、資料とデータのファイリングを意識し、効率的な情報整理を心がけました。また、幸いと言いますか、研究のテーマが私の事業に関係する内容ですので、仕事=研究と言っても過言でないほどでした。仕事をしながらそれがそのまま復習になったり、実験になったりの繰り返しができたのです。

鬼塚 机上の学問に終わらせないということですね。70ともなれば年金暮らしという楽な生活もあるはず。何がここまで吉岡さんの気持ちを動かしたのでしょうか。

吉岡 全国の経営者のためです。国税庁の発表では、中小企業では赤字決算の企業が68.5%に及んでいます。つまり3分の2以上が赤字経営ということです。ここが、景気の良いと言われている大企業と違うところです。このように収益が悪く、経営再生専門家が「もう破綻するしかない」と診断した窮境状態にある企業を、私のこの博士論文のテーマである再生手法を活用することによって、80%もの中小企業を生き返えらせることができると、この博士論文でも証明できました。
 その結果、眠れないほど追い詰められた社長が笑顔を見せてくれます。これが私の生きがいです。

鬼塚 このインタビューを読んでいる方々も、吉岡さんのように博士号の取得を考え始めているかもしれません。可能ならば、大学を選ぶ際に参考になること、どのくらいお金がかかるかなどを教えていただければ嬉しいのですがいかがでしょう?

吉岡 自分のこれまでやってきた仕事に関係した分野を追求できる大学院を選ぶと良いでしょう。趣味レベルでは歯が立たないです(笑)。
 また、お金に関してですが、大学院によって異なると思いますが、私の場合は修士と博士課程を修了するための入学金・授業料が700万円。他に学会に入りますので学会費や研究用書籍などを含めると、1千万円くらいだと思います。

鬼塚 かなり高額ですね。

吉岡 一見そう思われるかもしれませんが、それだけのものを学べます。

鬼塚 さすがです。最後に、『生涯学習情報誌』の読者に一言お願いします。

吉岡 これまでは、定年までが一世一代の仕事で、そのあとは余生くらいに考えるのが普通でした。しかし、今は人生100年時代です。社会に出てから定年までの40年と同じくらいの人生が定年後にあるのです。定年後こそが、これまでの経験の上に立ってさらに飛躍できる人生で、私は“盛年期”だと思います。そう考えると、勉強で知見を拡げ、さらに働いていかなければならないと思います。それは皆様方のためにも日本のためにもそうだと思います。
 そして、鬼塚さん、私が博士号取得で投資した1千万円、死ぬまでに回収してみせますよ(笑)。もちろん税金もいっぱい払いながら。決して税金を食いつぶそうなんて思っていません。そう思うと今からの人生も楽しいものです。

鬼塚 すばらしい人生観です。老人は山を下りるだの、そういうことばかりが昨今言われています。私も将来、吉岡さんのような考え方を持ちたいと思います。本日はありがとうございました。

吉岡 ありがとうございました。

鬼塚忠(おにつか ただし)
1965年鹿児島市生まれ。鹿児島大学卒業。卒業後、世界40か国を放浪。1997年から海外書籍の版権エージェント会社に勤務。2001年、日本人作家のエージェント業を行う「アップルシード・エージェンシー」を設立。現在、経営者、作家、脚本家として活躍。「劇団もしも」も主宰している。
著書:『海峡を渡るバイオリン』(2004年フジテレビ45周年記念ドラマ化。文化庁芸術祭優秀賞受賞)、『Little DJ』(2007年映画化)、『僕たちのプレイボール』(2012年映画化)、『カルテット!』(2012年映画化)、『花戦さ』(2017年映画化。日本アカデミー賞優秀作品賞受賞)など多数。
http://www.appleseed.co.jp/aboutus/aboutceo.html

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